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2025.04.15
SSS#7 スポーツとジェンダー
成城大学スポーツとジェンダー国際平等博狗体育_足球比分网-【在线官网】センター(以下、SGE)は、YouTubeチャンネル『Sport for Social Solutions (SSS)』を運営しています。本チャンネルでは、専門家や行政関係者、アスリートなどの幅広いゲストとともに、社会課題解決のプラットフォームとしてのスポーツに光を当て、情報提供や意見交換を行います。
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SSS第7回目のテーマは「スポーツとジェンダー」。
SGEポスドク博狗体育_足球比分网-【在线官网】員の二人が各分野の専門家にインタビューを行い、視聴者と共に学びを深める「ポスドクインタビュー回」。今回は、SGEの特別客員博狗体育_足球比分网-【在线官网】員であり、城西大学経営学部の山口理恵子教授をゲストに迎え、女性のスポーツ参画の歴史を振り返りながら、現代のスポーツとジェンダーに関する問題を多角的に掘り下げていきます。
山口理恵子氏(城西大学経営学部 教授)
専門分野は、スポーツとジェンダーやスポーツ文化論。著書に、『スポーツとLGBTQ+:シスジェンダー男性優位文化の周縁』(2022年、共著)、『日本代表論』(2020年、分担執筆)、『現代スポーツ評論50 特集:スポーツにおけるジェンダーを考える』(2024、責任編集)などがある。
女性が競技スポーツ参加の権利を獲得するまで
山口教授はまず、女性がスポーツ参加の権利を獲得する歴史的な過程について解説しました。フェミニズム運動が始まった1960年代後半から1970年にかけて、競技スポーツでも女性の参加機会を求める動きが高まりました。
国際的な競技マラソン大会で女性の出場が認められたのは、わずか46年前のことです。1979年の東京国際マラソンで初めて女子大会が開かれたことを皮切りに、オリンピックでは1984年のロサンゼルス大会で女子マラソンが正式種目となりました。
山口教授は、それまで「女性が激しい身体活動に参加することを好ましくないとする社会的風潮」が支配していたと語り、この常識に挑戦し歴史を変えた女性ランナーの一人として、キャサリン?スウィッツァーさんの事例を紹介しました。キャサリンさんは、1967年、女性の参加が認められていなかった当時のボストン?マラソンに、性別が分からないように登録。キャサリンさんは1967年、女性の参加が認められていなかった当時のボストン?マラソンに性別が分からないように登録。「女性にはマラソンは走れない」とされていた当時の常識を覆し、レース中に大会役員から妨害を受けながらも完走を果たしました。
山口教授は「女性のスポーツの歴史を振り返ってみると、『女子には無理だ』『女性には体力的にきつい』という、ある意味、善意のような発想で女性は(スポーツを)やってはいけない、やる必要がないと考えられてきた」と説明。このような善意や配慮からくる一見ポジティブに思える言動が、実際には差別を助長していることを「ベネヴォレント?セクシズム(善意的性差別/好意的性差別)」と解説し、「女子の競技スポーツでは、そういう歴史が非常に長く続いてきた」と述べました。
加えて、女性のスポーツ参加を促進する上で大きな影響を与えた出来事として、いくつかの事例が紹介されました。その一つが、アメリカの女性のスポーツ機会拡充に大きく貢献した「Title IX(タイトルナイン)」です。この法律は、アメリカの公立高等教育機関における教育プログラムや活動における性差別を禁止した教育改正法第9編の通称として知られています。1972年に成立したこの法律により、学内のスポーツ活動でも男女平等が求められるようになり、アメリカにおける女性のスポーツ参加率の向上に大きく寄与しました。
次に、スポーツにおけるジェンダー平等の歴史を語る上で象徴的な人物であるビリー?ジーン?キング氏に言及しました。1960年代~80年代にかけて女性テニス界のトッププレーヤーとして活躍していたビリー氏は、Title Ⅸが制定された翌年の1973年に女子テニス協会(WTA)を立ち上げ、男女間での賃金格差を含む性差別の是正に大きく貢献しました。こうした流れの中で開催された、元男子世界チャンピオンのボビー?リックス氏との対戦は、「女性は男性には勝てない」という通説を跳ね飛ばし、社会に大きなインパクトをもたらしました。
これらの話を受けて、宮澤氏は自身が取り組んできた水球に触れました。男子競技としては1900年のパリオリンピックから採用されていた水球ですが、女子競技として認められたのは2000年のシドニーオリンピックであり、実に100年の差がありました。宮澤氏は「女性のスポーツ参加の権利は長い間保障されてこなかった」と振り返りつつ、昨年開催されたパリ2024オリンピックで選手の出場枠が男女同数となったことに触れ、「現在、女性のスポーツ参加の権利は一定程度保障されるようになったと言えるのでしょうか?」と次の問いを投げかけました。
現代における女性スポーツの課題
山口教授は「機会は開かれてきたけれども、社会的サポートだったり、賞金や環境といった格差においてはまだまだなのではないかと思う」と、男性中心主義の中で確立してきたスポーツ界での現代の課題について触れました。賞金格差といった従来の問題の他にも、テクノロジーの発展による盗撮やSNSでの誹謗中傷の問題を指摘。世界陸連(World Athletics)が東京2020大会後に発表した調査では、誹謗中傷を含むあらゆる不当な扱いのうち87%が、女性選手をターゲットにしたものだと報告されています。「(女性のスポーツ参加の)機会は広がっているものの、それに対して攻撃をする力も激しくなってきている」と山口教授。男女の参加率といった「数」が強調されることで、隠されてしまう問題について指摘しました。
また、近年では、DSD※(Differences of Sex Development /性分化におけるさまざまな違い.)の選手やトランスジェンダー(性自認と出生時に割り当てられた性別が異なる人)選手の出場に関する議論が活発化しています。その上で、女性のスポーツ参加の獲得に奮闘してきた時代を経て、現代では「スポーツをする『女性』とは誰なのか?」という根本的な問いに差し戻されていることに言及しました。
※DSDは疾患名としては性分化疾患(Disorders of Sex Development)が使用されています。
「ジェンダー平等」を考える
最後に宮澤は、SGEの特別客員博狗体育_足球比分网-【在线官网】員でもある山口教授の設立記者会見時の次の発言に触れました。「『ジェンダー平等』という言葉を使うこのセンターの設立には、女性だけではなく、男性やセクシュアルマイノリティに関する課題へと博狗体育_足球比分网-【在线官网】の視点を広げていける可能性を感じています。」
この発言の中にある「男性やセクシュアルマイノリティに関する課題に視点を広げる」ことの重要性を問われた山口教授は、スポーツがシスジェンダーで異性愛の「健康な」男性を中心に設計されてきたことに触れ、こうした制度の中で「埋もれていく、あるいはそぎ落とされていく人々には、男性も女性もいる」と説明しました。また、「誰が女性で誰が男性なのかという問いについても考える必要がある」と述べ、「ジェンダーの問題を考えることは、必然的にセクシュアリティの問題とも繋がってくる」と、より広い側面から、ジェンダーとセクシュアリティの問題を捉えていく重要性を強調しました。
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